スターの悲劇


今回で三回目(たぶん最後)のアンリ「神の手」ネタ。
成り行きでけっこう追ってしまいました。

さて、先日のW杯予選プレーオフ第2戦にて、手を使ってフランスに「恥ずべき勝利」をもたらした「ヒーロー」に、救いの手は差し伸べられたのでしょうか?

「Equipe」紙に、彼の心中がにじみ出たインタヴューが掲載されています。
「試合の翌日も、そのまた翌日も、僕は孤独で、本当に独りぼっちだと感じていた。僕が(再試合を求める)公式声明を発表してから、やっと一度だけフランスサッカー連盟が連絡してきた。」
代表引退を考えたか、との質問に対して。
「もちろん、考えた。金曜日になって、すべてのことに対して距離ができて、やっと元気が戻ったけどね。(…)最近起こったあれやこれやで、僕は打ち捨てられたと感じたけど、僕が代表を見捨てるなんてことはないよ。」
彼は自分の行為を後悔しているのでしょうか。
「場合によっては、ゴールの後に喜びを爆発させてしまったのは、非難されることかもしれない。(…)そんなこと、しなければよかったんだ。でも率直に言って、コントロールすることなんで出来なかった。これまで僕らが耐えてきたことを考えたらね…。」
「ただ、起きてしまったことは重荷になっていくだろう。いつだって許すことはできても、常に忘れることができるわけじゃないから。」

家族や友人のサポートは別にして、フランス人の公式見解は、いまだに「過ちを犯した人気者」に厳しいものが多いようです。サルコジ大統領のアイルランド首相への謝罪をはじめとして、アンリの「いかさま」は公認の事実にすら見えます。
でも、個人的には、ハンド自体は反則だとしても、その後のアンリの振る舞いやコメントはむしろ、フェアプレーに属するんじゃないかと思っています。
相手のアイルランド代表主将ロビー・キーンもコメントしている通り、同じく主将という立場で、これだけ世論が敵対的ななか、自らの反則を認め、再試合を要求するというのは、なかなかできることじゃないと思います。
また、イングランド代表主将を務めた経験もあるデビッド・ベッカムも、アンリは「いかさま師」などではないし、W杯の予選は何が起こるか誰にも分からない極限の状況なんだと強調しています。
その他にも、アーセナル監督アーセン・ヴェンゲル、テニス界からもロジャー・フェデラーなども、アンリを擁護するコメントを発しています。それだけ、マスコミを始めた世論のスターに対する攻撃は予想以上に厳しいものなのかもしれません。


最後に、すでに代表を引退し、現在は解説者としてたびたびテレビで見かけるジネディ-ヌ・ジダン(右写真)が、先日放送された「CANAL+」のインタヴューに答えていました。
アンリのハンドは見ましたか?
「僕には見えなかった。審判だけでなく、テレビの前の誰も見ていないと思う。スローの映像で後から確認しただけだ。」
アンリは「いかさま師」だと言われていますが?
「僕は、彼がそんなやつじゃないことを知っている。」
アンリは公の場で謝罪すべきでしょうか?
「彼はすでに、多かれ少なかれ謝っているよ。」
そして最後に、元フランス代表の司令塔はこう言いました。
「僕が言いたいのは、アンリは反則していないということではない。ただ、反則を犯したけれど、それでもいいじゃないか、ということだ。」

レアル・マドリーの幹部候補でありながら、ライバルチームのバルセロナの選手であるアンリをしっかり擁護するあたり、なかなか男前です。
いろいろ揉めましたし、アンリの去就については、いまだに、代表から落とすべきだとか、本選ではプレーさせるべきではないとか、外野が騒いでいますが、結局この事件、「反則して、見逃されて、謝った」というだけで、まさにジダンの言う通り、「それでいいじゃない」という気がします。

スターゆえのバッシング。そしてスターゆえの孤独。
いろいろ乗り越えて、がんばれティティ!

コメント

  1. 母国からもそれだけ言われてしまうとは…。日本とは違いそうです。それだけ、デフォルトが多様化しているということなのかな。

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  2. コメントありがとうございます。
    なるほど。そういう見方もできそうですね。
    フランス代表は移民が多いですから、「フランス国民」と言っても一枚岩ではないのかもしれません。

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